バッハが残したメロディ

レコーディングの裏話

「偶然がもたらした幸運」

 

このレコーディング(1997年2月)は当初 、日本のバロックファゴット界の大御所、堂坂先生がやる予定でした。このためにフレンチピッチの楽器をフランスに注文するなど早くからBCJとも相談し、準備もされていました。

 

ところがレコーディング日程が都響の定期と重なってしまい、先生は急遽出演を断念し、私が届いたばかりの楽器をお借りしてやることになりました。東京でのリハーサル中は先生のお宅に滞在して練習。定期のリハから帰った先生に色々をアドバイスもいただき、後は毎夜の酒宴。でも自分が乗れなかった愚痴のようなことは一切おっしゃらず。我がことのように親身になってご指導いただきました。

 

この曲でLOW G(あくまで記譜上ですが)が録音されたのは世界で初めてだったらしいです。ベルを延長したのでは?とか、その部分だけコントラファゴットで録音したのでは?などの声もありますが、実際はオケとファゴットが短3度違うピッチでの録音です。オルガンとオケのピッチは465で、フランスからやってきたファゴット奏者は392という当時の楽隊事情を反映しています。

 

米良さん、桜田さん、 秀美さん、 雅明さん、素晴らしい方々とのセッションに参加できたことは本当に幸運なことでした、いまでも大変感謝しています。いいCD評もいただき(一部抜粋)。とにかく一生の思い出です。

 

 

当時のCD批(英:グラムフォン誌)より

・・・・《わが神よ、いつまで、ああいつまでか》(BWV155)の「聴きもの」は、ファゴット・オブリガート付きの、憂いを帯びた(メランコリックな)アルト・テノール二重唱だ。声楽パートが嘆きの性格を呈示しているところに、素晴らしく技巧的なファゴット独奏がアルペジオで魅惑的な第三の声部を与えている。・・・・米良と桜田亮は、哀愁漂う二重唱で絶妙なバランスを保っており、そこに清澄なファゴットの演奏が加わって、この三重唱が目を見張るほど美しいものになっている。